​ 魔女と子竜

魔女の棲処

 朦朧とした意識が晴れたとき、子竜はまた違う場所にいた。暖かな空気で満たされたそこは、母と暮らした穴倉にどこか似ている。その洞窟の壁に穿たれた壁龕の1つに子竜は寝かされていた。

 寝返りをうつと、柔らかな乾草が子竜の鱗を包み込む。気持ちよくてうっとりと眼を細めた子竜の視界に、見知らぬものが入り込んできた。

 黒く変色していた前足のあった場所に、銀色の物体が取りつけられている。それは子竜の前足を模してはいたが、明らかに金属で造られた人工物だ。

「あぁ、目が覚めたんだなぁ……」

 安堵した女の声が耳朶を穿つ。あの雨の森の中で出会った女の声。子竜は眼をまん丸にして、壁龕を覗き込んできた彼女を見つめた。

「お腹なんか出して、そんなにここは気持ちいいかぁ?」

 緑の眼を細め、女は笑ってみせる。彼女に柔らかな腹部を触られ、子竜はびくりと体を震わせてた。

「ギャン……」

「よかった、ちゃんと鳴けるようにもなってる」

 女は安心した様子で息を吐いて、子竜の首筋へと手をのばす。そこに穿たれていた傷はすっかり癒えていた。

「癒しの泉に漬けておいた甲斐があった。その泉も、少し前に枯れてしまったけれどね……」

 寂しげに女が眼を曇らせる。そんな女を慰めたくて、子竜は女の手に頭を摺り寄せていた。

「慰めてくれるの、おチビさん? 私より小さいのに?」

「ギャン!」

 失礼な。今にお前より大きくなる。

 女の発言に不快感を覚え子竜は鳴いてみせる。女は困ったように笑って、子竜から手を放した。

「腹が減っただろう? 竜に鶏肉のスープは食べられるかな?」

 女が壁龕から離れていく。竜は背を向けた女を視線で追った。

 洞窟の中は柔らかな光で満たされている。壁に穿たれた壁龕に鉱石が置かれ、それが光を放っているのだ。洞窟の壁には干された薬草の束や、鮮やかな魚の泳ぐ水瓶などが吊るされていた。

 女は、そんな洞窟の奥へと去っていく。

 そこには竈が造られ、料理道具が竈の周囲の壁に吊るされていた。竈の側には大小さまざまな壺や、水の張った甕が置かれている。

 ここは女の住処らしい。竈の上に置かれた鍋の中身を菜箸でくるくるとかき混ぜ、女は煮えたぎる中身を底の深い小さな皿へと盛っていく。

「ほら、チビ。飯だぞ」

 戻ってきた女が小さな皿を子竜に差し出す。そこからする香ばしい香りに、子竜は体を起こしていた。

 くるくると愛らしい腹の虫が子竜から発せられる。その音に女が苦笑を浮かべた。そんな女に抗議したくて、子竜はギャンと鳴いていた。

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