​花吐き少年と、虚ろ竜

海底の鎮魂歌

Tio estas, de knabo kaj kava drako kraĉ floro filino de la historio de amo.

 ヴェーロが穴を開けてしまったせいで、ヴィーヴォたちがいた虚はすっかり海中に没してしまった。そこから、竜に転じたヴェーロが抜け出てくる。ヴェーロの背鰭にはヴィーヴォが掴まっていた。
 ヴィーヴォが背鰭から手を放し、自分の前へとやってくる。彼は珊瑚の群れを指さした。珊瑚の枝には瓶が置かれ、その瓶の中で星が瞬きを繰り返している。
 ヴィーヴォが珊瑚の森へと降り立つ。ヴェーロは口を大きく開け、巨大な銀色の気泡を吐きだした。
 その気泡が、ヴィーヴォを包み込む。
 気泡の中で、ヴィーヴォはゆったりと唇を開いた。
 悲しい鎮魂歌が海底に流れる。その歌の高低に合わせ、瓶に入った星たちは明滅を繰り返した。美しいアルトの旋律に引き寄せられるように、ヴェーロはメルマイドを伴い気泡に包まれたヴィーヴォの周囲を旋回する。
 メルマイドのソプラノが、ヴィーヴォのアルトと重なる。
 音程の違う二つの歌声は重なり合い、一つの旋律となって海底に響き渡っていく。その旋律に呼応するように、メルマイドの持つ瓶が眩い輝きを放った。
 瓶の中に入れられた眼から、白く輝く星々が放たれる。メルマイドの持つ瓶は割れ、放たれた星はヴィーヴォの眼へと吸い込まれていった。
 珊瑚の枝に置かれた瓶も次々と割れていく。その中に入っていた星たちも、螺旋を描きながらヴィーヴォの元へと集まってくる。
 星を吸い込む彼の体は白く輝き、周囲を照らしていく。
 歌がやむ。
 ヴィーヴォの唇から灯花が吐き出された。
 それは竜胆の形をした薄紫の灯花だった。くるくると輪舞を踊りながら、灯花たちは気泡から放れ、海底へと沈んでいく。灯花たちは、白い砂地に薄紫色の花畑を作り出した。
 気泡が割れる。
 花を吐き終えたヴィーヴォの体は、ゆっくりと灯花たちがつくりあげた花畑へと落ちていく。ヴェーロは人の姿を取り、花畑に横たわる彼のもとへと向かった。
 薄紫色の花に囲まれるヴィーヴォは眼を閉じていた。そんな彼のもとに降りたち、彼を抱き寄せる。
 ヴェーロは彼に口づけをしていた。唇を通して、彼に生命力を送ってみせる。
 唇を離すと、長い睫に覆われた瞼がゆったりと開けられる。茫洋とした眼でヴェ―ロを見つめ、ヴィーヴォは優しく微笑みを浮かべてみせる。
 彼が上方へと顔を向ける。ヴェーロが彼の視線を追いかけると、彼は一輪の灯花を見つめていた。その灯花が海面へとあがっていく。
 ヴィーヴォが縋るような眼差しをヴェ―ロに向けてくる。ヴェーロは静かに頷き彼に微笑んでみせた。

 

 彼を優しく横抱きにする。翼を動かし、ヴェーロは灯花を追って上昇していく。
 暗い海面を突き破ると、そこには瑠璃色の地球が浮かんでいた。そんな地球の周囲をくるくると巡る灯花がある。
 竜胆の形をしたそれは、他の灯花と違い鮮やかな桜色をしていた。その灯花を追って、ヴェーロは空へと飛び立つ。
「こらー、どこに行くんですか? 珊瑚色っ!」
 逃げる灯花を、胸に抱いたヴィーヴォが掴む。ヴィーヴォに捕まった灯花は、抗議するようにりぃんと美しい音を奏でた。
「駄目っ! 死んでも彼女の側にいることが、あなたの望みだって遺言で僕に伝えましたよね?約束は、守ってもらいますよっ!」
 花を怒鳴りつけ、ヴィーヴォは乱暴にそれを海へと放り投げた。花はくるくると回りながら、海面へと落ちていく。そんな花を優しく受け止める手があった。
 海中から顔をだしたメルマイドが、桜色の灯花を手に捧げ持っている。
「ヴェーロ、彼女のところに連れて行ってくれる?」
「うんっ」
 ヴェーロは優しく微笑んで、ヴィーヴォに頷いた。
 翼をはためかせメルマイドのもとへと向かう。ヴィーヴォは身を乗り出し、メルマイドが持つ灯花に唇を落としてみせた。灯花は薄紅色に輝きながら美しい髪飾りへとその姿を変える。髪飾りは宙を舞い、メルマイドの桜色の髪に静かに留まった。
 メルマイドは眼を輝かせ、髪飾りに触れる。彼女は咲き誇るような笑みを顔に浮かべてみせた。
 そんなメルマイドを見て、ヴェーロも自然と笑顔になる。
 自分の魂を、同じ人でないものを愛するヴィーヴォに弔って欲しい。灯花となって、メルマイドの側にずっといたい。
 それが、死んだ珊瑚色の遺言だとヴィーヴォは話してくれた。
 魂を持たない人魚たちは、人間には想像もつかないほど途方もない年月を生きるという。生前、珊瑚色はそんなメルマイドと一緒にいるにはどうしたらいいか、考えていたそうだ。
 そして彼は思いつく。
 仲間である花吐きに、自身の魂を灯花にしてもらうことを。
 花吐きたちの力は眼に宿るという。その眼に灯花に還元する星を閉じ込め、花吐きたちは灯花を吐き出すのだ。
 命を削って灯花を吐く花吐きの魂は、死後消滅してしまう。だが、それ以外の理由で死ぬ花吐きの魂は死後も残り、自身の眼に閉じ込められてしまうという。
 珊瑚色は、死ぬ前にメルマイドに自身の眼を手元に置いておくよう言い残した。
 自身を灯花にしてくれるヴィーヴォが来るのを、彼は待っていたのだ。
「これでずっと、一緒にいられるね」
 腕の中のヴィーヴォがメルマイドに微笑む。
 髪飾りとなった恋人を優しくなで、メルマイドは笑みを深めてみせた。

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