
巡る、車輪
カラカラと自転車の車輪が回っている。
自転車を横倒しにした状態で、少女が手でペダルを回しているのだ。大きな眼をぱちくりとしばたたかせながら、少女は回る車輪を見つめる。
春の陽光を受けて、車輪は銀色の閃光を放っていた。
その閃光の中に少女は人影を見た。
自分にそっくりな、小さな女の子だ。その子が補助輪のついた自転車に乗って、土手を走っている。自転車の後方には、1人の男性が付き添っていた。
たぶん、女の子の父親だ。
どことなくその人の顔がおじいちゃんに似ていることに気がつき、少女は大きく眼を見開く。
「ママだっ!」
少女が声を発した瞬間、車輪の中の光景が変わった。
少しばかり成長した女の子が、補助輪をつけていない自転車に乗っている。その後方には、青い自転車に乗った男性が付き添っていた。
2人は、桜の咲いた土手を自転車で走っている。
女の子の乗る自転車は、少女がペダルを回している赤い自転車と同じものだ。
「ママと同じだー!!」
少女は思わず声をあげていた。
「あら、ゆみちゃんは本当に自転車が好きねっ!」
そんな少女に声をかける女性がいる。少女はぴんっと立ちあがり、女性へと向かい合った。
「好き! ママとお揃いの自転車好き!」
「あら、それがママの自転車だってよくわかったわね。教えてないのに……。そうよ、その自転車はね小さな頃におじいちゃんにママが買ってもらったものなのよ」
「おじいちゃんも一緒だった! ここに小さいママがいるのー!!」
少女は車輪を指さす。
カラカラと音をたてて回る車輪は、陽光を受けて虹色に輝いている。
そこには何も映っていない。それでも女性は驚いた様子で眼を見開き、少女に微笑みかけてみせた。
「あら、ゆみちゃんにも見えたの?」
「ママも見えた?」
「えぇ、あれはママが小学校の頃だった。この車輪にね、小さい女の子が映っていたの。その子は――」