王様と墓所

                  Nordiske fantasy

 丘の外れには、緩やかな傾斜面が広がっている。短い春がやってくるとブルーベリーの白い花で覆われるそこは、十字架の形をした墓石が点在している。傾斜面の最後は崖になっており、峻厳としたフィヨルドの一部を形づくっていた。
 苔で覆われた墓石にはうっすらと雪がかかっていた。カットはその雪を手で退かし、持ってきたドライフラワーの花輪をかける。ブルーベリーの花でできたそれは、まっさらな雪と違い乳白色だ。
 亡くなった母のことを思い出し、カットは微笑んでいた。
 ブルーベリーの花輪をプレゼントすると、ヴィッツはいつも嬉しそうに微笑んでカットをなでてくれた。
「ブルーベリーの花。母さんが好きだった花なんだ」
 ヴィッツの墓石をなでながら、カットは後方へと振り向いてみせる。眼を曇らせ、フィナがカットを見つめていた。
「そんなに辛気臭そうな顔しないでよ。俺に仕えることになった者たちには、みんな母さんに挨拶をしてもらってる。フィナにもそうしてもらいたいんだ……」
 カットは弾んだ声でフィナに話しかける。フィナは覚束ない足取りで墓石に向かい、そっと頭をさげた。
「お初にお目にかかりますお妃さま。このたびカット国王陛下の護衛任務を仰せつかった、フィナと申します」
 そっとフィナは顔をあげ、墓石に微笑みかける。
「どうかご安心ください。お妃さまの大切な陛下は、このフィナが誠心誠意お守りいたします」
 フィナの声に応えるように小さな風が吹き、雪を巻き上げていく。ゆれる黒髪を片手で押さえ、フィナは空を仰いだ。
 漣の音が聞こえる。ヴィッツの墓石の向こう側には、どこまでも続く海洋が広がっていた。
 エメラルドグリーンに光る氷山の間から、崩れかけた巨大な塔がいくつも顔を出している。その昔ラグナロクで滅んだ巨人族の都だというその遺跡は、海中に没し全容を窺い知ることはできない。
 その遺跡の向こう側に、北極圏に生えたユグドラシルが聳えている。
「神たちに滅ぼされた巨人たちは、どこに行ってしまったのでしょうか?」
 フィナの赤い眼が崩れた塔を映しこんでいた。
 そっとカットはフィナに顔を向ける。彼女は眼を伏せ遺跡の塔に見入っていた。 海風が吹いて、塔が唸る。
 フィナの言葉に、カットは遠い昔に起きたラグナロクに思いを馳せていた。
 冬に覆われた終焉の世界で、神々と巨人族はお互いに争い滅び去ってしまう。 戦が終わったと、新たな大地が海から浮かび上がり世界は再生した。その地が今この国がある場所なのだ。
 遠い昔に、同じやり取りをあの少女と交わしたことがある。
 猫になってしまえばいいと、自分に言い放ち別れてしまった少女。
 目の前にいるフィナに、よく似た少女。
「フィナ……。やっぱり君は――」
 放った言葉は、体に走った衝撃によって遮られる。カットの体は宙に浮き、凄い速さでフィナから遠ざかっていくではないか。
「陛下っ!」
「フィナっ!」
 フィナの叫び声が聞こえる。彼女に手を差しのべるが、その手は彼女から遠ざかるばかりだ。
 気がついたときには、もう遅かった。
 カットは後ろから誰かに抱きすくめられ、橇に乗せられてしまったのだ。
 ノルウェージャンフォレストキャットに引かれる橇は教会の建つ丘をくだり、深い谷を目指して疾走する。
「お久しぶり。愛しい人……」
 そっと帽子越しに頭をなでられ、カットはびくりと肩を震わせていた。自分を抱きしめている相手を見上げ、カットは眼を見開いていた。
 自分より長身なその男は、長い赤毛を風にゆらしながらカットに微笑みを向けている。
「レヴ……。お前、実家に帰ったんじゃ……」
「陛下のことが好きすぎて、帰ってきちゃった」
 翠色の眼を煌めかせ、レヴは笑みを深めてみせた。

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